土・牛・微生物−文明の衰退を食い止める土の話−【書評】

グリーン関連のおすすめ本

土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話

土壌の劣化がもたらすもの

一般的に畑やガーデニングをイメージするとき「耕すこと」は当たり前のこととして認識されているのではないでしょうか?

文字通り日本語の「耕す」は「田を返す」という語源からだし、文化や教養を意味するカルチャー(culture)の語源は「心を耕す」という意味からきていますしね。

でも、国際的にも認められた地質学者である著者のD・モントゴメリーは

「犂(すき)は人類最悪の発明」

とし、

「不耕起が農業における5つ目の革命になる」

とまで述べています。

FAO(国際連合食糧農業機関 )の調査では、食物生産の基礎ともいえる土壌は地球規模で劣化が進んでおり、世界の作物生産能力は毎年0.5%ずつ低下していると算出しています。

また、この報告書では、日本においても、土壌有機炭素の変化・重金属汚染・養分不均衡・侵食といった状況が報告されていて例外ではありません。

こうした状況を作り出している大きな要因が「耕起(耕すこと)」といわれると驚くかもしれませんが、本書を読んでいくと、それが事実であることがだんだんわかっていきます。

この本を機会に、常識的に、あるいは、無意識的に必要だと考えていた「耕起」という行為についてあらためて考えてみてはいかがでしょうか?

科学的知見にもとづく「不耕起」

本書では、従来の農業ではトレードオフとなってしまっている「環境問題」と「食糧生産」の関係を打開する環境保全型農業として、様々な研究データや科学的知見から不耕起栽培に辿りつきます。

また、その不耕起栽培で十分な収量を得るためには「被覆植物を使って土壌を露出させないこと」と「多種多様な作物を輪作すること」という2つのポイントも押さえる必要があるとしています。

“環境保全型農業の3原則”

  • 耕さない
  • 土を植物で覆う
  • いろんな種類の作物を育てる

生物多様性や持続可能な開発に興味がある方や、よく目にするような

「テクノロジーを駆使した技術と産業革命以前の伝統的な技術」

あるいは

「慣行栽培と有機栽培」

といったような対立軸の議論に混乱したり疲弊したりしてしまっている方は、特に本書で述べているような「不耕起」に目を向けてみるのもいいかもしれません。

3部作の完結編

この本は、『土の文明史』『土と内臓』につづく土をめぐる3部作の完結編となる本です。

1冊目の『土の文明史』では、土壌と文明の盛衰の関係性を、2冊目の『土と内臓』では、植物の根の周りで起きていることと、人の内臓で起きていることを比べることで微生物の重要性について述べました。

そして3冊目となる本書では、1、2冊目を踏まえて、環境保全型農業を実践している世界中の様々な事例を紹介しながら「環境問題」と「食糧生産」の解決策を見いだしていきます。

現代農業の神話

環境保全型農業をうまくやっている世界各地の実践事例を調査していくなかで、「不耕起」「被覆」「輪作」という3つのポイントを押さえている現場では、慣行農法と遜色がないほどの収量と、労力や資材にかかるコストの削減が出来ているとわかった著者は、

・工業化された化学製品を多様する農業が今日の世界を養っている
・工業化され化学製品を多様する農業のほうが効率的である
・集約的な農業科学製品の使用が将来の世界を養うために必要となる

このような現代農業を支えている前提について、どれも事実ではないことを詳しく述べていきます。

「不耕起」への誤解

しかし、このような可能性に満ちた方法であるにも関わらず、環境保全型農業の栽培面積は全世界の農地面積のうち11%程度で、その3/4以上は南北アメリカ大陸という限られた地域で行われており、ヨーロッパやアジア、アフリカでは数パーセントにとどまっています。

その大きな要因としては、

そもそも慣行農業と不耕起農業の対立があり、これらの農法が不適切な形で研究、比較、最終的には推薦されること

だと筆者は語ります。

「3原則を採用している不耕起栽培」と、「そうでない不耕起栽培」とのデータがごちゃ混ぜで語られることが多いため、それが生産者や消費者、農業政策の決定者の誤解を生み、その浸透を妨げてしまっているのが現状のようです。

農家の板挟み

「不耕起」が普及するための鍵となる、世界の食料の約80%を生産している家族経営農家(1ha未満の小規模農家を含む)が、環境保全型農業に移行できるかどうかという問題もあります。

持続可能な農業であり、農家自身のコストも減ることからメリットばかりかと思われる不耕起栽培ですが、農家側には例えば以下に示すような、さまざまな障壁があるために、

・環境保全型農業を地域の条件と作物に適応させる知識が欠けていること
・移行の途中で農家が被るかもしれない経済的打撃のリスク
・環境保全農業を行う際の資本がなかったり、資金の貸し付けを利用しにくいこと

たとえ移行したいと思っても実際には踏み出しにくいといった現状があります。

その解決には、実物規模の実験農場によって地域での成功事例を示していくことや、環境保全保全農業に報奨を与えるような制度を作っていくこと、また、それらの基礎となる研究をすることが必要だとしています。

一方で、消費者が、この3原則を採用している環境保全型農業を行なって育てられた作物がわかりやすく購入できるようにする必要もあるといいます。

有機栽培、自然栽培、環境保全型といっても、その多くは「耕すこと」を採用している場合がほとんどですからね。

不耕起栽培の実践を通して

僕も生物多様性や持続可能性に貢献できる畑をやっていきたいと思っていて、実際にこのような不耕起での栽培を続けて約2年が経ちました。

実践している場所は、10年以上少しでも草が生えてきたらトラクターで耕起し続けていた土地です。

本書にもありますが、不耕起栽培は、生産量が安定してくるまでに平均して2〜3年くらいかかるといわれています。

全く腐食のないような土地を借りてのスタートだっただけに、もちろん簡単にはいかないだろうなと覚悟していましたが、それでもやっぱり、

「このままで大丈夫だろうか」

と不安になることもありました。なにせ、2年経ってようやく雑草が良く育つようになったくらいの段階ですからね。

状況的にうちの畑の場合ではもう少し時間がかかると思いますが、不耕起を続けていると、ツルハシじゃないと掘れなかったような硬い土にスコップがスッと入るようになったし、雨が降ると水たまりやぬかるみだらけだったのに、今では大雨があった次の日でも水たまりができません。確実に土が良くなってきているという実感があります。

なので、科学的な見地から「不耕起」を支持している本書は、今の実験的な畑を続けていくうえでとても心強い内容でした。

ちなみに英語のculture(文化・教養)やcultivate(耕す)の語源は、ラテン語の「colere」に由来しているようです。

この「colere」には「耕す」という意味のほかにも「守る」「住む」「手入れをする」など広い意味を含む言葉のようです。

土壌を「物質の貯蔵庫」ではなく「生物の海」として意識しなおし、その生物の生活圏を奪う「耕す」という行為を見直してみてはいかがでしょうか?


土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話