「自然」という幻想【書評】

グリーン関連のおすすめ本

「美しさ」という言葉はいろんな意味を含む概念ですよね。けれど、対象が「人と自然との関係」のことになると、その言葉の意味がとたんに狭くなってしまうことがよくあるようです。

たとえば、普段わたしたちの意識の中にも、日本庭園のような手の行き届いた庭と比べて、雑草が生えているような空地のことは「荒れている」「みっともない」と思われることも少なくないように思います。

それと同じように環境保全の分野でも、多くの人の「自然」という言葉に対するイメージが、知らないうちに偏見に満ちた思い込み信仰のようなものになってしまっているために、自然の概念や美しさの可能性を狭めてしまっているようです。

しかし、地球規模の気候変動が始まっているうえに、人の活動による影響によって、急速に失われていっている生態系や生物多様性を守っていくためには、このようにせばまってしまった自然の概念では対応できないことがわかってきました。

手つかずの自然というワードに何か引っかかる人、植物を育てることに興味がある人、環境保全に対して何かしら関わってみたい人、あるいは僕と同じようにランドスケープに関わる仕事をしたいと思っている人には、ぜひ、本書を手にとって、自然や美しさといった言葉の解釈を広げていってほしいなと思います。

どんな内容?

本書では、世界各地で行われている自然保護や環境保全に関するさまざまな事例を挙げながら、それぞれの活動のなかで自然や環境とは何を指しているのか、何に行き詰まっているのか、どんな意見の対立や葛藤があるのかを網羅的に紹介しているので、環境保全における世界の流れをざっくり知ることができます。

例えば、イエローストーン国立公園やアマゾンの熱帯雨林などといったような、これまで手つかずの自然と思われ守られてきた場所でも人の手が入っていたことが明らかになっています。

そのため、世界各地で行われてきたさまざまな環境保全・回復活動の目標である「手つかずの自然」という共通認識が実は幻想であることに気づき、これまでのような「自然を元に戻そう、外来種を排除しよう」といった一律のスローガンが意味をなさなくなってきていることがわかってきました。

また、物議を醸す事例として、アメリカで絶滅してしまった大型哺乳類の遺伝的に近い代替種を、アフリカから持ってきて生物多様性を確保しようとする計画も紹介されています。一見すると眉をひそめたくなるような乱暴で過激ともとれる計画ですが、読み進めていくと、この計画が一概に間違っているとも言えなくなってきます。

今の生態系は正常に機能しているのか、今まで通りの自然や生態系を守ることが本当に未来の自然や生態系を守ることに繋がっていくことなのか、放置して自然のままに任せるのか人が関与するのか、感情的に特定の種を守ることが逆に生物多様性を壊してしまっていないか、などなど、よくある単純な在来種と外来種というわけ方を超えて議論していかなければならない状況にあることがわかってきます。

著者の紹介

「基準となる過去の自然」が存在するという幻想によって身動きがとれなくなっていた生態学者たちも、そもそも手つかずの自然自体がなかったことが明らかになってきたため、環境保全に対して様々なアプローチがとれるようになってきていると著者のエマ・マリスはいいます。

アメリカ在住のサイエンスライターである彼女は「過去でなく未来に視点を向け、目標を階層化し、ランドスケープ(景域)の管理をすすめることこそ、未来の自然保全の要点」であると主張します。

その基礎にあるのは、コアとなる大きな自然の周りに、多様な保全・活用をうける小さな土地が回廊のように連なって、そうした全てが人と自然の共存する賑やかな多自然ガーデンになってゆくというエコロジカルランドスケープの考え方。

僕もこのようなランドスケープの考え方に共感しているし、農業という分野ですが、ランドスケープの仕事をしているという意識で取り組んでいます。

狭くて小さくても意味がある

いまの日本の法律では、「一律に明治以降に入ってきたもの」「(日本起源のものであっても)人が動かしたもの」=外来種と決められていてワルモノとして扱われがちで、自然保護というとどうしてもそれを排除する流れになってしまいがちです。

でも、ランドスケープを意識した多自然ガーデンという新しい自然保護のかたちを目指していくときに、その線引きに意味がある場所とそうではない場所がでてきます。

なので、これからは、その場所・地域ごとに目指す環境が違うことを前提に、ローカル主体での話し合いや合意形成が重要となってきます。

また、小さい規模だからといって、環境を良くしていこうという活動の力になれない、意味がないと諦めることはありません。

手つかず(のような)奥山から、人が管理する里山、庭園や公園、土手といった面積が大きくて意味づけされた緑地だけでなく、それを繋ぐような群発的に広がるいろんな用途で使われる小さな点となる緑地も大切な要素で、そこに自然のつながりや美を見出していくことができます。

ぜひ、足元にある小さな自然からはじめてみてはいかがでしょうか。

 

プラスα

また、本書を読むうえで、次のリンク先の記事やラジオがとても参考になりました。

こちらも一緒に読んだり聞いたりすることをオススメします!